早稲田大学マスコミ研究会

公式HPはこちら→https://waseda-massken.com/

『運命の出会い』 作:ぺいぺい(ぶんげい分科会)

「ふぁ~、もう朝か」カーテンの隙間から部屋に入ってくる日差しを目にし、そう呟いた。昨日は金曜日で、学校がない土日を控えていたからゲームで徹夜をした。服装はもちろんジャージである。動きやすいし、着やすいジャージは俺のような引きこもりゲーマーには正装と言ってもいいかもしれない。

 ゲームも一段落ついたし、そろそろ寝ようかなぁと思い布団に入ろうとした瞬間、

「アキラ、起きなさい」と母親が大声で言いながら階段を上り、部屋に入ってきた。

俺の格好を見た母親は、一瞬ですべてを理解したようで、

「あんたまた徹夜したでしょ」と言ってきた。

「別にいいだろ。今日は学校もないんだし、好きなことに時間を使うのは自由だろ」

「はぁ~、まぁいくら言っても変わらないし、成績も一応、学年上位だしね。母さん、あんたがこんなにゲームばっかりしてるのに、成績いいのが不思議でたまらないわ」

 母親はため息をつきながら呆れた様子で言った。そう、俺は学年順位一桁台の学力を持っている。別に勉強が好きなわけではないが、大好きなゲームを好きなだけやっても成績さえよければ、両親に文句は言われないだろうとの考えのもと、勉強している。

「そんなことより、今日は家族でお出かけって言ったでしょ。早く着替えて準備しなさい」と母親は部屋に押しかけた目的を話した。

 あ、完全に忘れていた。めんどくさいが約束してしまったなら仕方ないかと思いながら目的地を母親に尋ねた。

「隣町のショッピングモールよ」と母親は答えると続けて、

「お父さんが車出してくれるから、とにかくあんたは早く着替えなさい」と言った。

「着替えるのめんどくさいからこのままでいいよ」

「いいわけないでしょ! 服装は現代人の鎧よ。あんたのその格好は歩兵以下。そんなんで外に行ったら即死よ」

 誰と戦うんだよと思ったが口には出さなかった。出したら戦争になり、目の前の強敵に殺されそうだし……。

 

 暑い……。今日の最高気温は35℃らしい。前日、徹夜した人間を強制的に連れ出すなんてどこの鬼だよ、と心の中で愚痴を言っていると

「早く歩きなさい。あんたの服を買いに来たのよ」と母親が言った。

「え、俺そんな事頼んでないし、第一、服なんかに興味ないし」と俺は反論した。すると

「アキラ、おしゃれすることは社会に出たら当たり前のことだ。高校生のうちに慣れておかないと、大学生になったら大変だぞ」と父親が言い、続けて

「父さんもなぁ、高校生のときにはおしゃれに興味がなかった。そのせいで大学生の時に苦労したもんだ。あの時は……」と自分の過去の体験記を話し始めた。いつものことだが、父親はことあるごとに自分の過去の体験記を語りたがる。

「……。つまりだ、社会に出るだけでなく、恋をしたりするとおしゃれにも興味を持つようになるのだから、今のうちに慣れておくことだな」とどこか自慢げに父親は語った。

 そして、俺はそのまま両親に連れまわされ、服屋を何軒も梯子させられた。さすがの両親も疲れてくると思っていたが、ぴんぴんしていた。それどころか、ようやくエンジンがかかってきたと言わんばかりに、店の中の商品を隅々までチェックしていた。その両親の拘束から逃れるため、俺は自動販売機に飲み物を買いに行くことにした。実際、晴天によるあまりの暑さにのども乾いていた。自動販売機の前で、どの飲み物にしようかと悩んでいると、

「あれ、斎藤君じゃない?」

 突然話しかけられた。振り返ってみると、そこにはクラスメイトの早見詩織さんがいた。

「あ、やっぱり斎藤君だ。どうしてこんなところにいるの?」

「いや~、両親に無理やり連れてこられて。少しでもおしゃれをしろって言われて……」

 俺はすこし緊張気味に答えた。

「やっぱり。斎藤君あんまりおしゃれとか興味なさそうだもんね。でも、おしゃれしないと女の子にモテないよ」

「いや、モテたいとかあんまり考えたことないし」

「そっか。でもせっかく来たんだからいいもの買って帰らないとね」と早見さんは笑顔で言った。

「じゃあ、私、両親待たせてるから、ここらへんで。また学校でね」

「また学校で」

 飲み物を買い、両親のもとへ向かう。その途中、俺はなぜか胸が熱くなっていた。普段は制服姿でしか会わない早見さんだが、今日は休日。早見さんは白のワンピースにヒールを履き、少しだが化粧もしていた。そんな早見さんに、俺は一目ぼれをしたのだろうか。この時の俺は、自分が抱いた感情も、この出会いの重要性もまだ知らなかった。