早稲田大学マスコミ研究会

公式HPはこちら→https://waseda-massken.com/

小説『桃源郷』ペンネーム:親王

 土曜の夜。サイドテーブルに置いていたスマホが鳴り出した。ぶるぶると身震いして存在を誇示する薄い板に、僕はベッドから手を伸ばした。

 スマホを手に取ってみると、画面には『安藤美香』の文字があった。大学で同じサークルだった女性だ。

 あまりに唐突な連絡に、僕はベッドから身を起こした。安直な期待が頭によぎる。しかしそういえば、彼女は今年の年賀状で結婚を報告していた。相手は僕の知らない男性で、大学卒業後に出会った男性だろう。

 まさか不倫? なんてな。

 僕は間違い電話と踏んで、平板な声で電話に出た。

「もしもし?」

『あ、もしもし幸介くん?』

 美香特有の、明るい声が耳に響く。スマホから耳を遠ざけたくなるほどに、溌剌とした声だ。

「そうだけど」

『久しぶり! いま大丈夫?』

 間違い電話ではなさそうだ。しかし、三年も連絡をとってなかった僕になんの用がある?

 僕が大丈夫と言うと、彼女は続けた。

『あのさ、幸介くんにお願いしたいことがあって。まず、明日空いてる?』

 空いている。僕は頭の中で即答した。考えるまでもない。この半年ほど、日曜日にプライベートな用事が入ったことなどないのだ。

「えーと、明日は……」

 しかしプライドがそうさせたのか、気がつくと僕はもったいつけるような言い方をしていた。

 美香は僕の回答を静かに待っている。

「あ、明日は特になにも」

 僕は据え置きのカレンダーを手に持って言った。無論、カレンダーにはほとんど何も書かれていない。

『ほんと! よかった』

 美香はさも嬉しそうに言った。そのあと、美香の声が少し遠くなって言う。『駿ちゃん、幸介くん来れるって』

「駿ちゃん?」

 僕は聞き返した。

『ああ、ごめんごめん。夫の名前。去年結婚したの』

「ああ、なるほどね」

 美香の返答を聞いた途端、僕は自分の表情が暗くなっていくのを感じた。胸に抱いたあわい期待は、あまりにあっけなく打ち砕かれた。

 僕は声に落胆の色が滲まぬよう、丁寧に言葉をつないだ。

「それで空いてるけど、どうして?」

『ああ、それなんだけど。山登りに、付き添ってほしくて』

「山登り?」

 意外な頼みに、思わず復唱した。

『そう、山登り。幸介くん山登るのが趣味だって、大学のとき言ってたでしょ。私たち二人じゃ不安だから、ガイドしてもらいたくて』

 頭が混乱してきた。山登りだなんて、前日に頼むことか?

「ええっとそれは、どのくらいの高さの山なの」

『うーん、たぶん600メートルとかそんくらいじゃないかな』

 600メートル。高尾山と同じくらいだ。それくらいであれば、それほどの準備がなくても登ることができる。

『山頂ってわけじゃないんだけど、すごく綺麗な桜の木があって。ほんとう、嫌なこととか全部忘れられるくらい綺麗なんだよ』

 美香は嬉々とした声で続けた。

 僕は少し迷った挙句、美香の頼みを引き受けることにした。600メートルで、しかも山頂ではないとなれば、それほど負担の大きい話でもないと思ったからだ。

 明日の集合時間と集合場所を確認して、僕は電話を切った。

 

 こんなことになるなら、引き受けるんじゃなかった。

 切り立った崖道の上、僕は声を上げて泣く美香を抱きしめて、その背をさすっていた。

 ほんの一瞬だった。一瞬目を離しただけだった。

 後ろをついてきていたはずの美香の夫――駿ちゃん――が、姿を消したのだ。

 なんの音もしなかった。後ろを確認しようと振り返ると、そこには美香の姿しかなかった。

 美香も気づかなかったらしい。彼がいないことを知ると、美香は取り乱した。

「幸介くん、どうしよう。駿ちゃん、駿ちゃんが」

 僕は取り乱す美香の背中をさすりながら、思考を巡らせた。

 どこか途中で置いてきた……はずはない。ついさっきまで、一緒だった。

 なら考えられるのは――。

 僕は切り立った崖の下を見下ろした。生い茂る緑が遠くに見える。

 その深緑の遠さに、息を吞んだ。

 考えたくはないけど、一番確率が高い。

「とにかく」

 僕は美香の肩をつかみ、美香に向き直った。美香は目を真っ赤に腫らしている。

「とにかく、救助隊だ。泣いてても仕方が無い」

 僕はスマホを取り出した。アンテナを見ると、ぎりぎりつながっている。110を押し、耳にスマホを押し当てた。

 頼む。つながってくれ――

 しかし僕の願いとは裏腹に、スマホからは無機質な女性の声が流れた。

『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか……』

 僕はスマホを耳から外し、もう一度電波状況を確認する。

 するとそこには、『圏外』の二文字が表示されていた。

「電波の届くところまで下りよう」

 僕はスマホをポケットにしまい、美香の手を引いて、来た道を引き返そうとする。しかし、美香は動かなかった。

「早くしないと、ほんとうに手遅れになるぞ!」

 美香を振り返り、僕はきつく言った。安請け合いした自分にも、責任の一端があると思った。

「ちがうの!」

 すると、美香は大きな声をあげて首を振った。

 僕は驚いて、美香の顔をまじまじと見た。

「ちがうって?」

「このもうちょっと上に、目的の桜の木がある。小さい頃、その桜の木の下でラジオを聞いてたから、電波がつながるはず」

 言い切った美香の目は赤く潤んでいたが、凜々しかった。もうただ取り乱しているわけではなさそうだった。

 僕は来た道を振り返った。

 ここまで、かなり長い道のりを歩いてきた。美香の言うとおり目的地で電波がつながるのであれば、そちらに向かった方がいい。

 僕はもう一度美香に向き直って、頷いた。

「わかった。登ろう。案内してくれ。危ないときは僕が後ろから声を出す」

 

 僕と美香はスピードをあげ、目的地を目指して崖道を登った。ずんずんと前を行く美香に、僕は必死でついていった。愛する人を思う気持ちは、ときとして莫大な力を生むようだ。

 最後は軽いロッククライミングだった。

「安全な道もあるけど、これが一番近いの」

 そう言って岩に足をかけた美香に、僕は黙ってついていった。

 そしていま、僕は最後の岩に右足を掛けた。そして右足を起点にぐっと身体を持ち上げると、突如として僕の前に色彩が現れた。

 背の低い草花が茂っていて、青や紫の小さな花が風に揺れていた。さっきまで茶色い岩肌一色だった視界に、その色は鮮明に映った。

 僕は身体を持ち上げて、崖を登り切った。土に汚れた手をはたきながら立ち上がると、先に登っていた美香が呆然と前に立っていた。

「あれ」

 美香は静かに言って、人差し指で前方を示した。その先を目で追って、僕は思わず

「すごい」

 と言葉を漏らした。

 一面に生い茂る草花の中央に、大きな桜の木が一本立っている。風が吹くと枝がたわんで、散るピンク色の花びらが一本の川のように空を流れている。

 無名な山に、こんな景色があっただなんて。

 僕はしばらく、その光景に見とれていた。やがて我に返って美香に言った。

「あの桜のすぐ下なら、つながるんだよね」

 僕は美香の返事を待たず、下生えを踏みつけながら桜の木に駆け寄った。

 息が切れた。標高が高いからか、パニックになっていたからか。

 桜の木が作る陰に入り込んだところで、僕はスマホを起動した。

 『圏外』の二文字が、僕の目に飛び込んで来た。

「くそっ」

 僕は大きく舌打ちした。

「ここもだめだ。やっぱり引き返そ……」

 言いながら顔を上げると、僕は言葉を失った。もっと後ろにいると思っていた美香が、既に目の前に立っていたのだ。

 しかし僕が絶句したのは、それだけが理由ではない。

 美香の顔には、うっすらと笑みが浮かんでいたのだ。

 美香は何も言わず、僕の手にあるスマホをすっと取り上げた。

「なにを――」

 僕が言いかけると同時に、美香はスマホをつかんだ指をぱっとひろげ、スマホを下生えの中に落とした。

「だめって、何が?」

 彼女は不気味に首を傾げた。不自然な微笑みが張り付いたその顔は、僕の知っている美香の温かい笑顔とは似ても似つかない。

 僕は恐ろしくなって後ずさった。しかし背後には桜の木があり、僕は行き詰まる。

「言ったじゃない。嫌なこととか全部忘れられるって」

 彼女は言って、静かに、一歩ずつ、僕に近寄ってきた。

f:id:waseda_Massken:20220309215849j:plain

『魔物』 ペンネーム:親王

 

f:id:waseda_Massken:20220302214826j:plain

 雪が降るキャンパスを、僕は足早に歩いた。先へ先へと足を伸ばして、冷たい地面を置き去りにしていく。

 すでに積もった雪は植込みの石段沿いに白い山脈を作っていて、視界の端に触れては過ぎていった。

 授業が終わったら食堂に行って、昼食を食べたらインターン先に向かう。インターンで経験を積んだら良い会社に入って。良い会社に入って高い給料をもらって。高い給料をもらって、幸せに暮らす。

 僕の人生設計には、一ミリの無駄もない。授業だって未だにA+しかとったことがないし、インターンだって順調だ。来たる再来年の就職活動を見据えて、僕は着実にその土台を整えている。

 行く道を阻むように、雪は正面から僕に降り注いでくる。顔面に降りかかってくる雪を、僕は首を振ってふるい落とした。

 かぶりを振って顔を上げると、講堂が目の前に立っていた。冠のように尖った塔は灰色の空に臨み、小窓のなかには暖色系の灯がともっている。雪国の教会のようにあたたかい包容力と、堂々たる迫力を見せてる。

 視界に数人の男たちが入ってきて僕は我に返った。いつの間にか立ち止まって、講堂を眺めていたらしい。

 男たちは金色の混じった髪の毛を振って、むだに大きい声で名前を呼んだり、笑いあったりしている。

 僕は男たちから視線をはずして、講堂の脇の食堂へつづく道へとすすんだ。そのときだった。

「あ」

 声が出たときには、もう遅かった。踏み出した足が氷に滑って、もはや制御を受け付けない。上半身を置き去りに足だけが前に滑って、すってん。僕はしりもちをついて転倒した。

「大丈夫っすか」

 さっきの若者のうち一人が、駆け寄ってきた。金髪の混じった髪の毛に、こんがりと焼けた肌。赤いジャンパーが、彼を余計大きく見せているようだった。

「ありがとうございます」

 僕は彼が差し伸べてくれた手を握って、立ち上がろうとした。そのとき、彼の背後の巨大な魔物が目に入った。

 魔物は鬼のようなおどろおどろしい角を持っていて、まん丸い一つ目でこちらをぎろりと睨みつけていた。その下の小窓からは炎の光が漏れ、無残な焼却を予感させた。

 僕はそれが恐ろしくてたまらなかった。

「大丈夫です、大丈夫です」

 僕は手を差し伸べてくれた男に繰り返し、さっさと立ち上がってその場を去ろうとした。一刻も早く、あの魔物の視線から逃れなければ。

 足を速めた。ネコの傍らを過ぎるネズミのように、魔物とは目を合わせずに食堂へ続く小道に入った。

 背後から、さっきの男たちの声が聞こえてきた。機嫌のいい声を出して、高らかに笑いあっている。

 彼らには見えないのだろうか。

 僕は笑い合う彼らを振り返った。

 彼らには見えないのだろうか。我々を見下ろす、あの大きな魔物が。それとも、見えていて見えないふりをしているのだろうか。あるいは――

 胸の奥がぐっと締め付けられた。季節外れの汗が、こめかみから滴った。

 見えているのは、僕だけか。

『霧氷』 ペンネーム:くじら

f:id:waseda_Massken:20220302214826j:plain

 寒い。

 目を覚ますと、いつのまにか付けていたはずの暖房が消えていた。凍えそうな体を無理矢理動かしてエアコンを付ける。

 暖かい風が部屋に流れて、頭が覚醒し始める。

ふと時計を見て、ヤバい、と立ち上がった。十時だ。大学の一限はとっくの昔に始まっている。これはまずいことになったと携帯をつかんだ瞬間思い出す。今日は日曜日だ。ほっとしながらも、寮の朝飯がないことに気付いた。着ていたパジャマの上にそのままコートを着て、コンビニへと向かう。いってきます、と呟いた声がかすれていた。少し悲しい休日の始まりだった。

 外に出ると、一月にもかかわらず雪が降っていた。寒い上に雪とか勘弁してくれよ、と思ったが、自然には抗えない。諦めた自分は身を縮めて歩き始める。

 ぼくは藤田翔という。大学三年生。彼女いない歴イコール年齢の悲しい男である。

 翔という名前であるにもかかわらず、特になにかに秀でている訳でもない普通の男で、高校の時のサッカー部も一度もレギュラーにならずに三年間を終えた。大学でもその普通さは変わらず、フットサルサークルに入ったのはいいものの、ほぼ遊んでばかりで何もしていない。もうすぐ期末だし単位マズいなぁ、と思いながらコンビニに着いた。

 コンビニのドアを押し開けると暖かい風がぼくを歓迎してくれた。弁当と缶コーヒーを買って、店を出る。

 コンビニの袋を持って、店をあとにする。一歩外に出ると、更に雪が吹き付けていた。店内が暖かったから、余計に寒く感じる。仕方ない、と左足を踏み出した瞬間、体がぐらついた。なにが起きた、なにが起きた? 困惑する自分をよそに体は雪へと投げ出された。

 どれくらい横になっていたのだろうか。突然目の前がはっきりしだした。ぼくは思わず飛び起きる。

 気温差でやられてしまったかと、歩き始めようとするがそこで違和感に気付く。さっきまで持っていたはずのコンビニの袋も、さっきまで後ろにあったはずのコンビニまでなくなっていた。歩き始めてみるがやはりおかしい。自分の住んでいたはずの寮も見当たらないし、あれだけ周りにあったはずのマンションもすべて雑木林になっている。

 何が起こっているんだと思いながら、通っている大学の講堂を見つける。大学は存在していると分かって、思わず走り出す。この訳の分からない状態で落ち着きたかった。

 しかし、さらに自分は困惑することになる。大学の講堂も、キャンパスもバリケードが張り巡らされている。もしかしてと思い、近くの駅で新聞を購入して気付いた。

 自分は早大闘争まっただ中の一九六六年にタイムスリップしてしまったのだと……。

 

To be continued……?

『雪が二人を祝福すると』ペンネーム:サカモト

f:id:waseda_Massken:20220302214826j:plain   

 2月11日土曜日。奇しくも大雪となってしまったが、僕は今日、告白する。今日こそ、彼女に告白する。

 

 彼女と出会ったのはサークルの新歓コンパだ。中高と文化部だったのにインカレテニスサークルの勧誘に断れず、慣れない飲み会にきてしまったのが運の尽き。先輩たちの飲み会特有のコールや、勢いに任せたテンションの高い会話に合わせることができず、肩身の狭い思いをしていた。

 隣に座る彼女もまた僕と同じように居心地悪そうにしていた。化粧っ気がなく少しイモ臭い服装をしつつも、クリリとした目と赤らんだ頬がなんとも可愛らしかったことを覚えている。

「大学の飲み会って、なんだか居心地悪いね」

 僕に気を遣ってか、はたまた自分の居心地の悪さをごまかすためか。少し困ったような笑顔で、彼女は僕に話しかけてきた。その場に馴染めないもの同士、二人だけで色々と話をした。新生活の楽しみや授業への不安。好きな小説やテレビ番組。話すうちに同じ学部であることも分かり、連絡先を交換することに成功した。思えばこの時点で、僕は彼女に恋をしていたのだろう。

 

 その後も少しずつ距離を詰めていき、同じ授業をとって一緒に授業を受けたり、テスト勉強をしたり、ご飯に誘ったりと、地道に彼女との接点を増やしていった。中高男子校であった僕にしては頑張った方ではないだろうか。

 知れば知るほど彼女は魅力的である。優しく、愛嬌があり、勉強熱心で、少しユーモアもある。彼女と付き合いたいという想いは、日に日に大きくなっていった。

 

 そして今日、彼女を大学へ呼び出した。あいにくの大雪で、大学から遠い家から通う彼女は電車の遅延で少々遅刻するそうだ。雪は刻々と激しくなり、寒さで指がかじかむ。しかし、この告白が成功すればこの雪も僕らの交際を祝福する桜吹雪へと変わるだろう!

 

 彼女が来た。薄ピンクのロングコートを着ており、彼女の柔らかい雰囲気とマッチしていた。

「遅れてごめんね、電車遅れちゃって......」

「だ、大丈夫! 全然待ってないよ」

 息を切らしながら、そう謝る。僕との待ち合わせに間に合うように、少し走ったのだろう。律儀な彼女らしい。

 いざ告白しようと思うと、どうにも会話がぎこちなくなってしまう。ていうか「全然待ってないよ」てなんだ。普通に30分以上待ってるだろ!

 いざ告白しようとすると、うまく言葉がでない。しばらく沈黙が続き、彼女は不思議そうな顔をしている。こんなことではダメだ! 僕は勇気を振り絞り、決意を固める。

「あ、あのさ!」

 告白の言葉はシンプルにすると決めている。

「初めて会った時から好きです。付き合ってください!」

 

 彼女は、初めて出会ったときと同じ、少し困った顔でこう言った。

「ごめん。私、彼氏いるから」

 

UNIDOL 2021-22 Winter 関東予選 早稲田チームパフォーマンスレポート【早稲田チームコメント付き!】

 


f:id:waseda_Massken:20220224203004j:image



 今回は12月14-15日に行われたUNIDOL 2021-22 Winter関東予選における、早稲田発のアイドルチームの活躍を取材しました!

 今大会では1日目に「夏目坂46」、2日目に「君はトキシック」「ももキュン☆」が出場。新型コロナウイルスによる制限もあるのもの、会場への集客に加えオンライン配信も導入することで、例年以上の観客を集めることに成功しました。

 輝く笑顔で懸命に踊る大学生アイドルの姿が、そこにはあります。早大生アイドルたちの活躍をぜひご覧ください!

 

 

 

・UNIDOLとは 

 各大学を代表するアイドルコピーダンスサークルが出場する、アイドルダンスコンテスト! 学生が運営するイベントの中では、集客数はトップクラス。

 大会の特徴は、振り付けや衣装、さらには自作ムービーまで用意してパフォーマンスをする点です。観客全体を笑顔にしようと楽しそうに踊るチームから、ひたすらにカッコいいダンスで魅了するチームまで、魅せ方は様々。全てのチームが入賞を目指し、胸の熱くなる演技を披露します。

 

【審査方法】

パフォーマンスは各チーム7分30秒。

ダンス・表現力・個性・演出・魅了度の5項目で審査

審査員票に加えて、会場・オンライン投票(1人2票)で順位を決定します。

 

 

目次

  • 【各チームパフォーマンスレポート】
    • 『夏目坂46』
    • 『君はトキシック』
    • 『ももキュン☆』
  • 【結果発表】
    • 【1日目入賞チーム】
    • 【2日目入賞チーム】
  • 【各チームからのコメント】
    • 君はトキシック
      • 入賞発表後インタビュー
    • 夏目坂46
    • ももキュン☆

 

 

続きを読む

『緊急! 初詣対策会議』ペンネーム:ぺいぺい

「それでは、会議を始める。来たる令和四年まであと三日となった。新年を迎えると、多くの人間たちは初詣を行い、我々に膨大な量の願いを送りつけてくる。そこで我々、神々がどのようにして我々のキャパシティーを凌駕した量の人間たちの願いを叶えてやるかについて話し合いたいと思う。何か意見があるモノはいるか?」

 

 と議長を務めるエビのように長い鬚をこしらえた北地区代表の神が言った。

 

「そうですね。今年も、くじ引きでいいのでないでしょうか」

 

 そう発言したのは、知的に見えるからという理由だけで伊達メガネをしている西地区代表の神だ。実はそこまで賢くない。

 

「毎年毎年、あまりにも人間たちの願いが多すぎて、私の地区の神々からも疲弊と不満の声が続出しています。くじ引きで私たちが無理なく処理できる量の願いを叶えることがベストだと思います」

 

 と東地区代表の神は言った。

 

「そうなんですよね。実際、僕の地区で一昨年、拝んでくれた人間たちの願いをすべて叶えようと奮起した神がいたのですが、人間たちの間で必ず願いが叶うと話題になってしまって、初詣シーズン終了後も参拝者が後を絶たなく、過労死しかけてましたよ」

 

 と東地区代表の神の意見に同意するような発言をしたのは、温和な性格で部下からの信頼も厚い南地区代表の神だ。

 

「では、東、南地区代表の神は、叶える人間たちの願いをくじ引きで決めるという意見なのじゃな」

 

 そう議長が二柱の神の意見をまとめた時、

 

「そもそも、人間たちの願いを叶えんでもええんちゃうか?」

 

 とコテコテの関西弁で過激な意見を述べたのは、西地区代表の神だ。歯に衣着せぬ発言が多く、暴君とも称される神であるが、カリスマ性はトップクラスで、彼を慕う部下は数多くいる。

 

 西地区代表の神は続けて、

 

「あいつら人間は煩悩の塊やで。大みそかに除夜の鐘とかいって煩悩を祓ってるみたいやけど、その数時間後には煩悩満載の願いを俺たち神に送りつけてきやがる。しかも、俺は商売繁盛の神やってゆうてんのに、恋愛成就やら健康祈願やら専門外の願いをつきつけてくるやつもおる。神やからって何でもできる訳ちゃうわ。そんなめちゃくちゃなやつらの願いをなんで叶えたらあかんねん、分けわからんわ!」

 

 とキレ気味に言った。

 

「まぁまぁ落ち着きなさい。西地区代表の神の言うことは一理あるが、我々神々は人間たちの信仰心を糧に生きておる。だから、道理に合わなくとも人間たちの願いを多少なりとも叶えてやらんとワシら自身も消滅してしまう危険性があるのは、西地区代表の神も分かっとることじゃろ」

 

 そう議長は西地区代表の神を諭すように言った。

 

「かといって、神々がくじ引きというある種の神頼み的な方法で叶える願いを決めるのも良くないじゃろうなぁ。どうするのが最適なのじゃろうかのう」

 

 彼ら四柱の神々は三日三晩会議を行ったが、結局これといった案を思いつかないまま新年を迎えてしまい、令和四年もくじ引きで人間たちの願いを叶えることとなった。

 

 彼ら神々が最適な対策を思いつくかどうかは、それこそ「神のみぞ知る」のだろう。

『はじめのいっぽ』ペンネーム:親王

 

「はじめのいーっぽのこしとく!」

 妻との一番最初の思い出は、このセリフだった。同じ団地で遊んでいた小学生低学年のころ、僕は同い年の妻が発したこの言葉に、雷に打たれたような衝撃を受けた。

 はじめのいっぽは、のこしておけるんだ。

 衝撃を受けた僕は、すぐに自分の足元を見た。僕の足は残念ながら既にスタートラインから大きく踏み出していた。横を見ると、他の友達も自分と一直線上にあった。隣の妻だけが、みんなの一歩後ろにいて、得意げに腰に手を当てて立っていたのだ。その勇ましさに、このとき既に惚れていたのかもしれない。

 妻はこのように、たくさんの驚きを見せてくれた。駆けっこは手をグーにするよりパーの方が速いとか、ジャンケンの前に両手を合わせて中を覗けば相手の出す手が見えるだとか。今思い返すと首を傾げたくなるような説も多かったが、当時の僕にとってそれらは秘密の「裏ワザ」であり、神秘的ですらあった。

 

 その妻の顔にはいま、白い布が一枚ひらりとかぶさっている。高い鼻が布に山のような凸をつくり、複数の脊梁を引いて鎮座していた。

窓から差し込む四角形の光が、彼女のかけている布団の一部を切り取っている。

 

「いや、行ったほうがいいって」

 僕に海外出張の話が持ち上がったのは、プロポーズの直後だった。このときは、まだ籍も入れてなかった。

 プロポーズ直後に自分だけ海外だなんて、しかも一年間だなんて、妻は激怒するだろうと相談した。しかし、思いのほか妻はあっさりと言ったのだ。

「たった一年でしょ? チャンスは逃さないほうがいいよ」

「でも」

「私は大丈夫。一年くらい待てるって。それよりも、給料上げてきちゃって」

 妻は冗談めかして、手でゼニのマークを作った。その顔には、悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。

 はじめのいーっぽのこしとく!

 そのときの妻の笑顔は、たしかにそう言っていた。

 幸せは、あとにとっておいて今は頑張ろう。

 僕はまた幼い妻に背中を押され、出張を決めた。出張前に、再会を誓うように籍を入れて。

 

 海外出張二ヶ月目。妻が交通事故で死んだと会社から知らせがあった。

 そういえば妻はあのとき残したはじめのいっぽを、どこかで使っていただろうか? 残したいっぽは、果たしていつ使われるのだろうか? もしかすると妻はあのとき、いっぽを使う前に鬼に捕まっていたかもしれない。ならあのとき残したいっぽはなんだったのか? なんのために、誰のために残されたいっぽなのか?

 徐々に陽が落ちて、窓から差し込む光が細長く伸びている。部屋は徐々に暗くなり、闇が僕の肩をじわじわと抱いた。