『賢い娘とサンタを語る』ペンネーム:サカモト
「ねえママ、サンタさんているの?」
今年6歳になった娘は、小首を傾げ上目遣いで尋ねてくる。自分の可愛らしさをよく理解しているのか、大きな目を宝石のように輝かせてこちらを見ている。あざとい。我が娘ながら恐ろしい。この子がキャバ嬢だったら無限に貢いでしまうだろう。というか、貢ぎたい。
そんな可愛い娘から、親が困る質問ランキング第2位の質問である「サンタの正体」が飛んでくる。ちなみに1位は「子どもはどうやってできるか」、3位は「飛行機はどうやって飛んでいるか」だ。全国の親はこの質問に対する完璧な回答を用意しておくことを勧める。
「いるよ? だって去年も一昨年もプレゼント貰ったでしょう?」
とりあえず、無難な返答。並の子供なら「うーん、まあそっか!」と納得し、おやつでも食べて忘れてしまうだろう。しかし、我が娘は一味違う。好奇心の塊である彼女は、ちょっとやそっとじゃ納得しない。
「えー、でも変だよ! サンタさんは戸締りしてるお家にも入ってきて、プレゼントを置いていくでしょ? そんな、ドラえもんの『オールマイティパス』みたいなことできたら、普通は泥棒しちゃうよね? やっぱり変!」
なるほど、我が娘は6歳ながら少々賢いようだ。唯一指摘するとすれば、「オールマイティパス」はどこにでも入れる通行証であり、深夜の家に、誰にも気付かれず忍び込むための道具ではないことくらい。そこは「通りぬけフープ」かな。
とはいえ、娘の言っていることは正論だ。私もそんな能力があったら、クリスマスプレゼントなど買わずにスーパーから拝借する。なんならもう一生働かない。はて、いかに返答したものか......。少し考えた私は、簡単な嘘で誤魔化すことにした。
「実は、サンタさんには試験があってね。綺麗な心を持っている人じゃないとサンタにはなれないの。だから、泥棒しようと考える人はそもそもサンタになれないのよ」
我ながら悪くない返答だ。これならサンタが盗みを働かない理由として十分だろう。しかし、娘はまだ納得していないようだ。愛らしい眉をひそめ、口を尖らせ、疑った顔をしている。
「でも心が綺麗かなんて何で判断するの? いくらでも嘘つけちゃうじゃん!」
当然の疑問だ。しかし、その回答も既に用意してある。
「ふふっ、簡単よ。サンタさんは子どもがいい子か悪い子か調べて、いい子にだけプレゼントをあげているでしょ? これは、サンタクロースが良い心を見分ける能力を持っているからなのよ。あなたもいい子にしていないと、今年のプレゼントを貰えないかもよ?」
6歳が大人を論破しようなんて10年早い。私はドヤ顔で答えた。最後に「いい子にしなさい」というメッセージも込めることで、情操教育にもつながるだろう。
これで納得してくれるはずだ。しかし、娘はしたり顔で追及してくる。
「でも、いじめっ子のタクヤくんもプレゼント貰ってたよ? いつも誰かの悪口言ってるエミちゃんもプレゼント貰ってたし。サンタさんは、あの子たちが悪い子だって見抜けないの?」
くっ、我が娘ながらやりおる。タクヤくんにエミちゃんめ。悪い子のくせにプレゼントを貰うなよ。
「えーと、それはね......」
返答に困っていると、娘は少しニヤニヤしながら、
「ママ、いじわるしてごめんね?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、いつもの上目遣いで謝った。なるほど、コイツすでにサンタの正体を知ってたな。どうやら娘の方が一枚上手だったようだ。我が娘は、とても賢い。