早稲田大学マスコミ研究会

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王道青春コメディーのはずなのに ~『湯神くんには友達がいない』で抱く違和感とは~

 『湯神くんには友達がいない』(佐倉準・小学館)は、少年サンデーにて2013年から2019年まで連載された人気作品だ。

 

 

もともとは1巻完結の予定だったが、読者の反響により16巻まで続いたほど人気ため、ご存じの人もいるだろう。 

 

父親の転勤により転校を繰り返してきた女子高生の綿貫ちひろ(17)は、新たに転入した先で、隣の席の湯神くんに出会う。理屈っぽい性格友達はおらず、独り言も激しお昼も一人、野球部のエースではあるが人望は薄い……。そんな湯神くんだが、なぜだか毎日とても楽しそう。「友達は自分には必要ない」と断言するほどお一人様を満喫している。

 

本作品は、そんな少し変わっている湯神くんとちひろの交流を文化祭、修学旅行、甲子園などのイベントを通して描いていく……はずなのだが、何か違う。

 本作品は、青春ラブコメにはかかせない要素(学校生活、イベント、二人でおでかけ、部活の試合、お家訪問)を全て満たしているのにも関わらず、この二人がメイクラブする方向にはなかなか傾かない。むしろ、話はどんどん関係ない方向に転がっていき、そのたびに湯神くんの奇妙な言動がうきぼりになっていく構造となっていくのだ。 

 

 

例えばクリスマスでのエピソード。 

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胸キュンを期待してしまいます

断れないお人よしな性格から、1日で3つのクリスマスパーティに参加することとなってしまったちひろに、湯神は、全てのパーティを同じカラオケボックスで行い、部屋移動をすることを提案する。そして当日、呼ばれてもいないパーティに湯神くんは現れ、ちひろにプレゼントを渡す。

 

ここまで聞くと「あれ? 湯神くんってちひろちゃんのこと、好きなんじゃない?」と思うが、プレゼントの中身はちひろの家で飼っている亀の冬眠グッズ。しかも湯神くんにとってこのプレゼントは「借り(前の話でちひろが湯神くんの大好きな落語のチケットをあげていた)を返す」ということ以外のなにものでもなく、湯神くんはその後パーティに参加することもなく帰ってしまう。

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湯神くん、帰るんかい!!!

また、湯神くんの登場によりちひろのクリスマスパーティ乱立作戦も皆にバレてしまうという有様だ。ちひろにとって良いことはあまり起きていない。 

 

 

湯神くんの行動は「誰かのため」ではなく常に「自分のため」に行われている。自分が幸せに生きることを最優先に行動しているのだ。しかしここで言っておかなければならないのは、「自分のために生きる=自分勝手」ではないということ。湯神くんにとっての「自分のため」は「自分の利益のため」では決してない。借りは返したり、困っている人はほっとけなかったりする、湯神くんなりの不器用な優しさが、彼魅力でもある。 

 

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そんな君が、好き……

 

本作品は湯神くんの奇妙な行動にスポットを当てているが、周りのキャラクターの性格も綿密に描かれており、きっと共感できる部分も見つかるだろう。そして、恋愛要素が少ないこそ、ほんの少しのラブコメ要素が入った時の盛り上がりはすごい。2次創作が乱立するのも頷ける。じれったいけどときめいてしまう。気づいたら登場人物の親目線で応援している……。

 

 

サンデーうぇぶり でも結構な分量読むことが出来るので是非お勧めしたい。最初は変人に見える湯神くんだが、読み進めると「案外良い奴じゃん」と思えるかもしれない。

実際周りにいたら絶対嫌だろうけれど。 

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