早稲田大学マスコミ研究会

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『Become Zero』 作:ぺいぺい

 ジリジリジリジリジリジリジリ……

 真空空間のように音一つない静寂が満ちていた私の部屋を、始まりの合図がぶち壊した。

「ふぁ~、もう朝か」

 私は、寝ぼけているのか頭にモヤがかかり、思考がままならない状態で鳴り続けていた目覚まし時計を止める。自分の仕事を全うし、これでもかと言わんばかりの我が物顔で、ベットの端に仁王立ちしている目覚まし時計に少し苛立ちながら、眼鏡をかけた。二度寝しないように、暖かい布団をのけ、ベットから抜け出し床に足をつけた途端、全身に電流が流れた。床が氷のように冷たかったのだ。そういえば、もう十一月になっており、テレビで連日、紅葉名所が紹介されていた。冬一歩手前なのに、暖房をつけずに寝たのだから、床が冷たくなるのは当たり前か。そう思いながら、私はタンスから冬用の分厚い靴下を取り出し、履いた。普段履いている薄い靴下より、冬用の靴下は分厚くふかふかしているため、少しブルジョワな気分になれるから大好きだ。そんなふかふかの感触を楽しみながら、二階の自分の部屋から一階のリビングに降りた。

「お母さん。おはよう~……って、あれお母さんいないの?」

 いつもなら私が起きる前に朝ご飯を用意して、リビングで待っていてくれるのに、今日はそのリビングに母の姿はなかった。

「お母さ~ん、まだ寝てるの~?」

 と言いながら私は母の寝室の扉を開けたが、そこにもいなかった。

 私は、幼い頃に父を亡くして以来、女手一つで母に育ててもらっている。当然、母は生活のために、会社に出向き仕事をしており、月に二回ほど残業のため家に帰ってこない日があるのだが、そういう日は事前に母から連絡をもらっている。しかし、今日は特に連絡はなかったはずだ。

(もしかしたら、会社でトラブルが起こり残業したのだろうか?)

 そう思った私は、寝ている間に母から連絡が入っていたのかもしれないとスマホの通知を確認するため、階段を駆け上がり自分の部屋に行った。しかし、いくら探してもスマホが見つからない。今日は不思議なことが起こるなぁと思いながら、スマホ探しをあきらめ、リビングに戻りふと時計を見ると、針が7時30分を指していた。

「やっべ、遅刻するじゃん」

 私は大急ぎでキッチンにあったトーストを焼き、冷蔵庫から牛乳といちごジャムを取り出し、朝食の準備をした。そして、テレビをつけた。ニュース番組の最後にやる星占いを観てから、登校するのが私のルーティーンだ。星占いまでまだ時間があるようで、ニュースキャスターがニュースを読んでいた。

「続いてのニュースです。昨日、夕方ごろ新潟県○○町で、横断歩道を渡ろうとしていた女子高校生を大型トラックがはねた事件で、容疑者の男が逮捕されました。」

「え、これ近所じゃん」

 事故が起きた交差点は、私の家から少し行ったところで、近くに交番がある。私も登下校でよく使う道だ。このあたりにある高校は、私が通っている高校一校しかないため、被害者の女子高生は同じ学校に違いない。

(どうして、こんな重大なニュースを私は知らなかったのだろうか?)

 そう疑問に思い、昨日の記憶を思い出そうとした途端、脳を鷲掴みされたような頭痛がして思い出せない。

「沙織ちゃんや静香ちゃんではないよね?」

 そう被害者が自分の親友でないことを祈りながら、ニュースの続きを観ていた。が、次の瞬間、全身を低温やけどしたように熱さと冷たさの両方をはらみながら、血の気が引いた。

「被害会われました女子高校生は、○○町に住む、加藤遥さん、一七歳。加藤さんは、搬送先の病院で今日未明、死亡が確認されました。心からご冥福申し上げます。」

 ニュースキャスターが神妙な面持ちでそう語るとともに、顔写真が放送された。私は被害者の顔と名前をよく知っていた。

 なぜなら、加藤遥は私なんだから……。