早稲田大学マスコミ研究会

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『この新聞部にはヘン人が多すぎる⁉ ~第一章 美術部殺人事件(前編)~』 ペンネーム:ぺいぺい

「おっほん。それではネタ出し会議を再開する。何か面白いネタがあるヤツはいるか?」

  口元にチロットチョコの残骸を残しながら、部長は問いかけた。

「じゃあ、私から提案しますね」

  そう言うと副部長はニタ~っとした笑みを浮かべながら続けた。

「私たちの学校の生徒会長とお向かいさんの生徒会長に熱愛疑惑が浮上したの! きっかけは、今年の合同学園祭に向けての会議で、すでに交際期間は一か月」

 と暴走した機関車のように熱を帯び、煙を上げながら話した。

「ちょっと待った。一花、お前プロローグではあんなにクールなキャラだったのに、いきなり残念な部分さらけ出して大丈夫なのかよ」

「希ちゃん。私は他人の恋愛話とだったら、抱いて溺死してもいいわ。ましてや、うちの生徒会長×お向かいさんの生徒会長なんて、……っくう~、最高だわ」

 とキャラ崩壊を心配する部長をよそ目に、副部長は堂々と、そして最高な笑顔を浮かべていた。

 そう、副部長は相当重度なカプ厨なのだ。私が新聞部に入部した時も、副部長は私と梨沙をまじまじと交互に見て、『八〇点、合格よ』と言った。

 当時は、その言葉の意味がよく分からなかったが、今はよく分かる。勝手に掛け合わせやがって。

 ちなみに、お向かいさんというのは、私たちの女子高から100ⅿ程離れた所にある、新星男子高等学校のことだ。隣接校同士の交流を重視するという名目で、毎年11月に行われる学園祭を共同開催している。

 そんなことより今は目の前のバーサーカーをどうにかして落ち着かせないと、新聞が恋愛話一色になってしまう。そう私は思い、もっともらしい理由をひねり出した。

「副部長。他人の恋愛話を新聞に載せるのは、個人情報的な観点からまずくないですか?」

  よし、この理由なら副部長も納得してくれる。と思った矢先、副部長はまたニタ~っとした笑みを浮かべながら

「大丈夫よ。ちゃんと個人情報は伏せて載せるわよ。私、二人についてはもっと情報持っているけど載せる気はないわ。例えば、お相手の生徒会長の名前は伊藤翔太、一七歳。血液型はO型、身長176㎝、体重70㎏、出生体重は2873g、小学校は……」

「ちょ、ちょっと待ってください。副部長、どこからそんな情報を入手したんですか? そんな詳細な情報、市役所のデータベースをハッキングでもしない限り出てこないでしょ」

「あら、楓ちゃん。乙女の秘密を暴くのは禁忌よ」

  副部長は子供を諭すように私の頭をなでなでしながら言った。

  いや、個人情報ダダ洩れだし、この情報を手に入れる手段なんてほぼ犯罪だろと思ったが、何とか飲み込んだ。

「と、とにかく、私はこのネタを新聞に載せるのは反対です」

  と私はこのネタへの反対の声をなんとか挙げられたが、副部長から不穏な雰囲気を感じた。

「あら、残念。私、このネタ以外なら、うちのある学生が中学生の時に作った、まだ出会ったことのない運命の人を恋い慕う詩を入手したぐらいしか」

「ああああああああああああああああああああああああああ」

  この人は私の中学卒業とともに無理心中させた黒歴史を、ゾンビのように生き返らせようとしやがった。

 この黒歴史だけはみんなに知られるわけにはいかない。

「……賛成です。……私は生徒会長同士の恋愛スクープを記事にするのに賛成です」

  この日、私、元町楓は副部長こと凛堂一花に完全敗北しました。そして、もう少しで私は死体になり、新聞部内で殺人事件が起こるところでした。

 この後、自分たちの黒歴史を暴かれるのを警戒してか、部長と梨沙の二人ともがマッハで生徒会長同士の恋愛スクープに賛成し、採択された。

 副部長は大変満足した表情をしていた。

「他にあるヤツいるか?」

「はーい。私、面白い情報を入手したよ」

 不穏な空気を打ち破るように、元気よく梨沙が手を挙げた。

「どうせ、たいしたことない情報だろ?」

「ひどいなぁ~、希ちゃんは。でも、今回は本当に面白そうな情報だよ。うちの美術部についての話なんだけど~」

「また、あいつらか」

 と美術部と聞いて、部長が怪訝な顔をした。

 うちの美術部は、全国大会で金賞を受賞するぐらいの強豪なのだが、女子高生が描いたと思えないぐらいのグロテスクな絵を描くことが多く、周りの学生から少し距離を取られている。簡単に言えば、変人集団だ。そのためか、新聞部的にはネタにしやすい行動を起こすことが多い。

「最近、変な儀式的な事をしているらしくて、生贄がどうこうっていう話をしているのを聞いたっていうタレコミをキャッチしたんだよね。そこで、今から美術部に突撃してみない?」

 さすが、怖いもの知らずの梨沙だ。私は美術部とは関わりたくないが、このままでは新聞が恋愛話一色になってしまうもの事実だ。

 部長もそのことを分かっているのだろう、渋々だが美術部への突撃を許可した。

「じゃあ、いくよ~。たのも~」

 と梨沙が元気よく扉を開けた。途端、私たちは信じられない光景を目の当たりにした。

 嗅いだことのない異臭。床には魔法陣のような幾何学模様が描かれ、その上に人が一人うつぶせになっていた。

 そして、その人は蠟人形のように微動だにせず、ただ真っ赤な液体を垂れ流し続けていた。

 右を見ると、紅染まった包丁を持った人物が一人。

 その人物の後ろには、死神が鎌をフルスイングで素振りしているのが見えるぐらいの殺気を感じた。

 そう、私たちは女子高生の死体が転がる、殺人現場に遭遇してしまったのだった。