三題噺から短編小説①
※三題噺では、指定された三つの言葉を使って作文を書きます。今回のお題は「ドライバー」「病院」「遠吠え」でした。
タイトル:医者と患者
医者は難儀していた。
彼の腕には一切の問題もなく、地位も収入にも問題はない。診ている患者も皆快方に向かっている。彼の目の前にいる患者も、一週間もあれば元どおりになるだろう。しかしこの患者がこの病院にいること自体が彼にとっては問題だった。患者に因縁があるわけでもないのだが、その患者は問題だった。
今日もその患者がやってきて、礼儀正しく診察室の椅子に腰を下ろした。
「先生、今日もよろしくお願いします。」
患者の眼が光る。患者のこういうところを医者は苦手としていた。
「それで、今日の調子はいかがですか?」
「体にガタがきてましてね。腰なんか一日中ギシギシ鳴ってますよ。」
「そうですか。やはり手術が必要なようですね。」
内心、医者はそれを手術などと呼びたくはなかった。しかし医者としての倫理観と場の空気がそうはさせてくれなかった。冷たく硬い印象の外見に反して患者はとてもフレンドリー。だが、そのことがますます医者の悩みを加速させていく。どう考えてもこの患者はこんなところに来るべきではない。しかしそのことをどう伝えればいいのか。そもそも伝えるべきなのだろうか。どうにも表情を読めない患者の顔がさらに心を惑わせる。だがもう医者の心は決まった。やはり伝えるべきだ。真実を伝えてこそだ。
「君、ロボットだよね?」
「え?」
「いやどう見てもそうでしょう。金属の外装にカメラアイ、おまけに充電用ポートまで。行くべきはたぶん病院じゃない。」
「面白い冗談ですね。手術を前に笑わせて和ませてくれるなんてやっぱり先生はいい人だ。私の善意センサーもあなたの善意を検知して犬がはしゃぐみたいに尻尾を振ってますよ。」
医者は驚いた。たぶん彼に何を言ってもよくて負け犬の遠吠え、悪ければやぶ蛇にしかならないだろう。看護婦にドライバーを持ってくるよう頼んでオペ室へ入っていった。