【魅力を力説したい】 『罪の声』
2020年10月31日に公開された映画『罪の声』
劇場で観ることができる日をずっと心待ちにしてきた作品である。小栗旬・星野源のW主演で話題となっているため、ご存知の方も多いだろう。そして、脚本はあの野木亜紀子氏。『逃げるは恥だが役に立つ』や『アンナチュラル』、『MIU404』で知られる野木氏が、どんな『罪の声』を描き出すのかにも注目だ。ただみなさんに知っていただきたいのは、なんと言っても、原作のおもしろさだ。
原作は、塩田武士氏による同名の長編小説。
2016年に単行本が発売され、本屋大賞では3位となった。この時点で、というか講談社から発行され話題となっていた時点で大変に興味を抱いていた私。
本は買う派&ハードカバーには手が出ない高校生だった私は文庫化を今か今かと待ち続けていた。そうしてようやく文庫化された昨年。発売されてすぐに購入して読んだところ、案の定、というか予想を上回るおもしろさに息を呑んだ。
題材となっているのは、昭和の未解決事件として知られる「森永・グリコ事件」。その犯罪に使われた子どもの声が自分のものであったと気づくことで、止まっていた事件の時間が再び動き出し、真相に迫っていく。この事件が未解決であることに変わりはないはずなのに、これが真実なのではないかと思うほどのリアルさ、説得力で描かれる作品に度肝を抜かれたものだ。
しかし一番の衝撃が待っていたのは、読み終わったあとだった。
読破した余韻のなかで思わず『罪の声』について調べていた際、当時実際に「森永・グリコ事件」で使用され、報道された「声」を発見したのである。もちろん聴いてみた。聴いて、そして……ひどく後悔した。
襲いかかってくる驚くほどの恐怖。ついさっきまで物語として楽しんでいたものが、確かな過去として迫ってくる感覚。あの事件で声を使われた子どもは実際に存在していたーー今もどこかで、誰も知らない過去を抱えて生きているのかもしれないという事実。圧倒された。
作品を作品として終わらせていれば、この声を聞かなければ、こんなに心を揺さぶられることもなかったのにと思いながら、溢れ出る涙を拭った。
映画は、ストーリーに音も映像もつく。読んだだけでそのおもしろさに圧倒されたあの作品に、音だけでなく映像までついてしまうと、どうなるのかーー。恐ろしさとともに、どうしようもなく楽しみで仕方がない。
ただ、この映画を観終わった時『罪の声』が間違いなく「好きな映画」になっていることだけは、確信している。