公開を自粛したい思い出No.1 純紺もざいく
電子機器に詳しくて損することはない、はずだった。
特に近頃は、Zoomの不具合を教員にこっそり教えて解決するなど、重宝してもらえる。
ただし知識というのは、中途半端だと事故を起こす。回収できない種を蒔いてはならない。
田舎ながらモデル校に選出されていた我が母校は、小学4年生からコンピュータの授業が始まる。一人一台ノートパソコンが配られ、普段親に禁止されている子どもたちなどはキーボードを無作為に叩くだけでテンション爆上がりだ。
音がかっこいいよね、パパが家でやってるやつだよ、憧れのさ。
そんな中、慣れた手つきでネットワークに接続し、担任の指示などとうに追い越してイキり倒してるヤツがいる。
勝手に隣の席の子どもにフラッシュゲームを勧め、スーパー正男や太鼓のオワタツジンの出来栄えを我が物顔で披露。
お前が作ったんじゃねぇよ。
あと担任の指示聞いてないけど大丈夫か、今の間に授業進んでるぞ。
そんないけ好かないクソガキは、周りの子どもの関心を集めたくて必死だった。
確かに指示をスピーディにこなせる優越感はあるが、なんかもっと目立てないかな。半端なPCスキルを持て余したクソガキは、脳みそを絞り続けていた。
数日後。担任が一台のノートパソコンを携えて朝の会に現れた。今日はコンピュータの授業は無いはずだ。ざわつく児童。クソガキもなんとなく担任の表情が険しいのを察することはできた。
「1組の後にパソコンを使った2組からクレームが来ました」
峨峨たる面持ちで口が開かれる。声色には圧倒的な呆れが含まれていた。
「これを見なさい」
折りたたまれたノートパソコンを開き、児童の机の間をゆっくりと、その画面を一人一人に見せながら、ゆっくりと歩き出す。窓際のクソガキは、廊下側の児童をぼんやり眺めていた。ある者は沈黙し、ある者はうつむいて肩を震わせていた。一体何が起きてるっていうんだ?
「あなたしかいないわよね、こんなことするの」
始業が遅れるほどの十分な時間をかけて近づいてきた担任は、クソガキの机の前で歩みを止め、デスクトップ画面を指さした。どうやら壁紙が初期Windowsの深く薄暗い紺ではないようだ。
いちめんのオードリー若林。
画像サイズを変えるスキルを持っていなかったせいで、小さな若林が画面いっぱいに20名程度敷き詰められている。
いちめんのオードリー若林。顔面蒼白山村暮鳥。
公開どころか、思い起こすだけで気分がWindowsカラーになる、クソガキだったころの自分。